- 「介護のヒヤリハット事例を知りたい」
- 「施設でヒヤリハットの対策しようと検討している」
上記のように考えている介護スタッフもいるのではないでしょうか。
介護のヒヤリハット事例は、主に「転倒事故」「管理ミス」「薬の飲み間違い」「コミュニケーション不足」「個人情報の漏洩」の5つです。
介護スタッフの力で未然に防げるものがあれば、利用者の注意力不足で起こり得る事故もあります。そのため、完全には防げないものとして考え、どう対策していくか考える機会を作ることが大切です。
この記事では、介護におけるヒヤリハット事例15選と、未然に防ぐためのポイントを解説します。加えて、起きた場合に重要な書類となるヒヤリハット報告書の作成方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
そもそもヒヤリハットの定義とは?
介護におけるヒヤリハットとは、介護現場で起こる事故やトラブルにつながる一歩手前のヒヤリハット事例を認知することです。
厚生労働省では、以下のように定義されています。
ヒヤリハットとは、危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこと
引用:厚生労働省「ヒヤリハット活動でリスクアセスメント」
重大な事故になるかと思って「ヒヤリ」としたり、その場面に遭遇した瞬間に「ハット」したりすることが言葉の由来です。
このヒヤリハット事例を認知することで、重大な事故を未然に防げます。介護現場だけに限らず、労働現場の多くで活用されています。
介護における15つのヒヤリハット事例
介護における15つのヒヤリハット事例を紹介します。
- 転倒事故
- 管理ミス
- 薬の飲み間違い
- コミュニケーション不足
- 個人情報の漏洩
転倒事故
転倒事故におけるヒヤリハット事例は、以下の通りです。
- 利用者が立ち上がろうとしたときに、バランスを崩して転倒する事例があります。利用者だけでなく、利用者を助けようとして介護スタッフもケガをするかもしれません。
- 移乗介助のときに、車いすのストッパーのかけ忘れで転倒する可能性があります。転倒によるケガだけでなく、車いすに巻き込まれてすり傷や切り傷などのケガも考えておかなければなりません。
- 利用者が歩行する際に、いすや観葉植物などの設備に体重をかけると転倒する恐れがあります。転倒後に上から設備が倒れてくると、骨折などの重大事故につながる可能性が高いです。
転倒事故は、利用者の生活全般で起こり得る事例です。そのため、介護スタッフが目の届かない場所でも事故が起きる可能性があります。
介護中の転倒事故はもちろん、「設備の配置」や「利用者の日活面」など「介護中以外」で起こり得る事例も考えましょう。
管理ミス
管理ミスにおけるヒヤリハット事例は、以下の通りです。
- 利用者が食事を飲み込んだか確認しないまま次の食事を口に運んでしまうと、むせて苦しそうになるだけでなく、誤嚥を起こす場合があります。
- 入浴時にシャワーの温度調節の確認を怠ってしまうと、利用者にやけどを負わせる可能性があります。また、利用者がお湯の熱さに気づかないこともあるので、脱水症状にも気をつけなければなりません。
- きざみ食の利用者に誤って常食を準備し、利用者が気づかないまま食事を口にしてしまうと、のどに詰まらせたりむせたりします。
多忙な介護現場だからこそ、管理ミスは起こりやすいです。食事や入浴・排泄などの管理を見落としたり確認を怠ってしまったりして、ヒヤリハットにつながった事例はたくさんあります。
生活介護や身体介護のあらゆる場面において、「管理面で起こり得るミスがないか」細かな部分まで振り返りましょう。
薬の飲み間違い
薬の飲み間違いのヒヤリハット事例は、以下のものがあります。
- 他の患者さんの薬を飲ませそうになる事例があります。そのまま飲んでしまうと、体調が急変する可能性が高いです。
- 似た形状の薬は間違いやすいので、渡す前に確認を怠らないようにしないとそのまま飲んでしまう可能性があります。
- 朝の薬を間違って夜渡してしまう事例があります。薬の種類が違うので、適切な効果を与えられないかもしれません。
薬を渡す前に管理表を照らし合わせないと、別の薬を飲んでしまう可能性が出てきます。最悪のケースでは、体調が急変することもあるので注意が必要です。
そのため、「薬を渡す手順表がしっかりと作成されているか」「管理表がわかりやすくなっているか」も確認しましょう。
コミュニケーション不足
コミュニケーション不足におけるヒヤリハット事例は、以下の通りです。
- 仕事が忙しくて利用者の要望を聞いてない事例があります。排泄の処置ができずにその場でしてしまうケースや、困りごとを解決できないことがあるかもしれません。
- 利用者が楽しそうに話しているのに、冷たい態度を取っていた可能性があります。そうすると、利用者は日常生活が楽しくなくなってしまい、不満を抱えたり精神的な病につながりやすいです。
- 忙しいときに声をかけられたときに、利用者に対して強い言葉を投げかけてしまう事例があります。利用者が要望を伝えづらい環境を作ってしまうので、トラブルが多発する可能性が高いです。
利用者が不自由なく生活するためには、コミュニケーションがないと成り立ちません。ただし、介護職は常に仕事に追われているので、不意に強い言葉を投げかけたり要望を後回しにしたりするケースもあるでしょう。
コミュニケーションを怠るとどのようなトラブルにつながるか、しっかりと考えることが大切です。
個人情報の漏洩
個人情報の漏洩には、以下のようなヒヤリハット事例があります。
- 私物のパソコンで利用者の個人情報を管理してすると、のぞき見される可能性が出てきます。第三者に見られると、利用者だけでなくその家族にも危害が及ぶかもしれません。
- パソコンに私物のUSBを挿入すると、ウイルスに感染する可能性があります。個人情報を悪用されてしまい、施設全体にも被害が出る可能性が高いです。
- 利用者の容体や個人情報についてSNSに投稿する事例があります。個人情報の漏洩でトラブルになるだけでなく、利用者やその家族とのプライバシー問題に発展するかもしれません。
個人情報は、施設を運営するうえで厳重に管理する必要があります。漏洩してしまうと、施設の信用問題はもちろん、利用者やその家族に危害が及ぶかもしれません。
「施設のパソコンに私物が絡んでいないか」「SNSや第三者への会話で利用者のことを話していないか」などを今一度確認しましょう。
介護でヒヤリハットを未然に防ぐための3つのポイント
介護でヒヤリハットを未然に防ぐための3つのポイントは以下の通りです。
- 利用者の情報を正確に把握する
- コミュニケーションをしっかりとる
- ヒヤリハット研修を行う
利用者の情報を正確に把握する
利用者の情報を正確に把握することで、ヒヤリハットを未然に防ぐことが可能です。特に、服薬している薬やアレルギー、持病はしっかりと把握しておかないといけません。
また、担当者が有給や退職で引継ぎが必要な場合、十分な情報を共有することが大切です。そのためにも、管理表の項目で把握できるのかを再確認し、情報の洩れを防ぐために引継ぎマニュアルも作成しましょう。
コミュニケーションをしっかりとる
コミュニケーションをしっかりとるのは、介護職の基本といえます。利用者の情報を引き出すのも介護職の大切な仕事だからです。
事前に利用者やその家族と面談をしているはずですが、それだけで全ての情報を把握できません。性格や趣味・嗜好、どのような場面で困りごとがあるのかなど、日々のコミュニケーションを通じて理解できるものです。
とはいえ、コミュニケーションはスキルの1つであり、介護スタッフにも得意不得意があります。また、人によって態度が変わったり、コミュニケーションの差が出たりするのもいけません。
そのため、「話を聞く姿勢」や「仕事が忙しいときの対応方法」など、コミュニケーションマニュアルも作成しましょう。
ヒヤリハット研修を行う
いざというときに対策できるよう、ヒヤリハット研修を行うことが大切です。仕事の一環として行うヒヤリハット活動と別で研修を行い、時間を多く使って防げない事故を中心に取り組むと良いでしょう。
ヒヤリハット研修の方法は以下の通りです。
- ヒヤリハットの事例共有
- ヒヤリハットが起きたときの対策
- 事例をもとにシミュレーションを行う
- 報告書の書き方をレクチャーし、必要性を伝える
具体的には、まずヒヤリハット事例を共有し、起きたときの対策案を出し合いましょう。その後、事例と対策案をもとに利用者の代役を1名準備して、シミュレーションを行います。
最後に、対策案が他にないかもう一度共有し合い、報告書の書き方と必要性までレクチャーすると良いです。起きてしまった後どう対策するかが重要なので、研修を通じて理解を深めましょう。
以下に、転倒事故を例にしたヒヤリハット事例をまとめました。
ヒヤリハットの事例共有 | ヒヤリハットが起きたときの対策 |
---|---|
車いすのストッパーかけ忘れによる転倒 | ストッパーの指差し呼称と車いすを揺らしての固定確認 |
立ち上がる際にバランスを崩して転倒 | ベッドの手すりの強化やストッパー付きの椅子を取り入れる |
歩行中に設備に手をかけて一緒に転倒 | 歩行の妨げになる不要物を置かず、身の回りの整頓を確認 |
特に、ヒヤリハットは忙しかったり気がゆるんだりした場合に起こりやすいです。いくら起こらないように気を張っていても、疲労の問題があれば、忙しい仕事が終わって一息つく瞬間もあります。
とはいえ、管理ミスや薬の飲み間違いは介護スタッフの力で防げても、転倒事故は利用者の不注意によって起こるので、完全に防ぐのは不可能です。
その事実も研修を通じてしっかりと伝え、起こり得るものとしてどう対策するのか考えましょう。
もしも介護中にヒヤリハットが起きたら「ヒヤリハット報告書」を作成しよう
ヒヤリハット報告書は、介護のヒヤリハット事例を対策するうえで重要な書類です。ヒヤリハットの原因を明確にして事故を未然に防げるのはもちろん、介護士の共有ツールとしても効果があります。
ヒヤリハット報告書の書き方とポイントについて、以下で詳しく解説します。
ヒヤリハット報告書の書き方
ヒヤリハット報告書は、「いつ」「どこで」「誰が」を共有できる内容にしましょう。書いた本人だけでなく、他の介護スタッフが見ても一目でわかることが大切です。
転倒の事例でヒヤリハット報告書を書くときの具体例は、以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
対象者(誰が) | 転倒した利用者の氏名 |
発見者 | 発見した介護スタッフの氏名 |
発生日時(いつ) | 令和〇年〇月〇日〇曜日 〇時〇分(具体的に書く) |
発生場所(どこで) | ベッドの横 |
発生分類 | 転倒 |
原因(なぜ起きたのか) | ベッドから降りるときに手すりがぐらついてバランスを崩した |
対策(どのように対策するのか) | ベッドの手すりの強化と、見回り時にゆるんでいないか確認 |
情報が多すぎると逆にわかりにくくなる可能性があります。そのため、必要な項目だけ報告書に書くようにしましょう。
ヒヤリハット報告書を書くときのポイント
ヒヤリハット報告書を書くときのポイントは、以下の通りです。
- 端的な言葉でまとめる
- 丁寧な言葉で話す
- 主観を避ける
情報は回りくどくなったり多くなりすぎてはわかりにくいだけです。そのため、余計な情報は省いて端的にまとめるのがポイントです。
加えて、丁寧な言葉遣いも大切になります。事故の後は利用者の家族が見る可能性もあるので、悪口や不快に感じる情報は書かないようにしましょう。
そして、一番大事なのは主観的な内容にならないことです。本人の感想や憶測で「転んで痛そうでした」「多分よそ見をして転倒したんだと思います」と書くと、何が起こったのかわからなかったり誤解したりする可能性があります。
よって、「トイレのドアの前で倒れていた」「2階待合室のテーブルの横で足をおさえてうずくまっていた」など、客観的事実のみ書くことを心がけましょう。
まとめ
介護のヒヤリハット事例は、利用者から目を離した隙に起こる可能性があるので、介護スタッフの力だけで未然に防げるものだけじゃありません。
とはいえ、仕方ないで済ませると、重大な事故に発展する可能性があります。そのため、どのような事例があるか介護スタッフで共有し、対策案を事前に考えておくことが大切です。
もしヒヤリハットが起きてしまったら、次につなげるためにヒヤリハット報告書を作成しましょう。介護士で共有ツールとして未然に防ぐ取り組みに効果的なので、この記事を参考にしながら準備を進めてください。
また、本サイトでは「介護で使ってはいけない言葉」や「介護職のコミュニケーション」の記事も紹介しています。報告書作成や利用者とのコミュニケーションに、ぜひ役立ててください。